公開から半年以上も経過した映画『市子』の人気が絶えないのはなぜなのか? その理由、実は私たちの中にあった【小林久乃】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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公開から半年以上も経過した映画『市子』の人気が絶えないのはなぜなのか? その理由、実は私たちの中にあった【小林久乃】

杉咲花

 

 

◾️「花は水をあげないと、枯れるから好き」

 

 目を見張ったのはパンニング(カメラの位置を変えないまま、左右の場面を映すこと)の激しさだ。セリフの応酬には、市子の魂の叫びが篭っている。私が観てきた邦画作品では一番長く、そして激しかったように思う。このシーンへ対するかのように、杉咲花による約6分間の、全くセリフがないシーンもある。一つの作品に表れた、激情と沈黙の応酬。注目してほしいシーンだ。そして映画には他にも市子の寂しさと狂気が、濁流のように流れてくる。 

 「ただ普通に生きたいだけ」 

 彼女が放った一言には、私たちが知る由もない願いがある。どんなに大人になっても見つかることのない自分の在処と、常に隣り合わせの壮絶と地獄。

  「花は水をあげないと、枯れるから好き」

 映画のセリフとして聞いているだけなら流してしまうけれど、この一言には彼女がここまで経験してきた、凄惨な事実が込められている気がした。他にも胸打たれたシーンやセリフはいくつも流れてきたけれど、これ以上は盛大なネタバレに繋がって、皆様の楽しみを奪ってしまうので、本編についてはここまでにしておこう。

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小林久乃

こばやし ひさの

コラムニスト、編集者

出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」(K Kベストセラーズ)にて作家デビュー。最新刊は趣味であるドラマオタクの知識をフルに活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」(青春出版社刊行)。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディア構成、編集、プロモーションなどを業とする、正々堂々の独身。最新情報はhttps://hisano-kobayashi.themedia.jp

 

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